旧暦の12月の別称『師走』
『師走』の意味や由来について、また旧暦での師走が今のいつ頃にあたるのかについて解説します。
また『師走』以外にもたくさんある12月の異名についても紹介していきましょう。
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師走の意味と由来について!
あらためて、『師走』とは「しわす」と読み、旧暦での12月を意味します。
このような日本独自の月の名前を『和風月名(わふうげつめい)』と言います。
他にも「睦月、如月、弥生………」と続きますが、中でも『師走』が一番知られているんじゃないでしょうか?
ではなぜ12月のことを『師走』と呼ぶようになったのか?
これについて知っている方はおそらく少ないでしょう。
『師走』の由来についてはいくつかの説があります。
結果からいうと有力な説はあるものの、確かな語源は実は明らかにはなっていません。
ここでは有力なものを含む、いくつかの説をご紹介していきます。
■師が走る説
「師が忙しくて走り回る月」とうことから「師走」とつけられたとする説です。
こちらは、みなさんが一番聞いたことある説かもしれません。
「年末は忙しい時期にあたるので”師”も走り回る」
ということからに由来する説です。
しかし、この「師走」という文字は当て字だとされています。
つまり、既に「しわす」と呼ばれいたところに「師走」という漢字があてはめたられたということです。
ちなみに、江戸時代の元禄の頃には既に「師走」という表記があります。
江戸の文学が盛んだった頃に言葉遊びとして世相を表現したものだと考えられているのです。
ではもとの「しわす」という言葉の語源は何なのか?
また、師走の「師」というのが誰を指すのか?についても諸説あるのでそちらも見ていきましょう。
■お坊さんが忙しい時期説
「師」というのが「僧侶」だとする説です。
つまり「お坊さん」のことですね。
昔はお正月にもご先祖様の供養をしていました。
そのために、年末になればあらゆる場所から声がかかり、お坊さんも忙しく東西南北を走り回ることになります。
「師(お坊さん)が東西各所へ馳せ参じる」ことから『師馳す(しはす)』と呼ばれました。
この『師馳す』が語源となり時代を経て「馳せる」が「走る」に変わって、「師走」という漢字が当てられたと考えられています。
『師馳す』の説に関しては平安時代末期の『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』という昔の辞書の中でも「しはす」の説明として出てきています。
この説が一番有力とされてはいるのですが、実は疑問は残ります。
この疑問に関してはもう少しあとで説明しますね!
■御師が忙しい説
「師」というのは「御師(おし・おんし)」だという説です。
「御師」というのは神宮や神社で参詣者を案内したり、参拝や宿泊などの世話をする人のことです。
年末年始になると参詣者も増え御師も忙しくなることから「師走」となったとする説です。
■教師が忙しい説
「先生も年末で忙しくなる時期」とする説です。
しかし、古来から伝わる『師走』の語源になったか?と考えると「教師説」は違うように思えますね。
『師馳す』が『師走』の疑問点
『師馳す』が語源になって後々に『師走』へとなったとする説が一番有力だと紹介しました。
平安時代末期の『色葉字類抄』にも出てくるので確かな気もします。
ですが実際には平安時代の後期には「師走」の意味についてはもう分からなくなっており、聞こえが良くて収まりのよい説をそのまま辞書に載せたのでは?とも言われているのです。
当時の師(お坊さん)はお正月にもご先祖様の供養をしていたので忙しい時期にあてはまることは分かります。
しかし、忙しい時期と言えば「お盆」もそうだったはずだし、なんなら「お盆」の方が忙しかったかもしれません。
そして、なんと平安時代よりも前の書物『日本書紀』や『万葉集』の中ですでに「十二月(シハス)」「十有二月(シハス)」という記述があるのです。
■万葉集
「十二月(シハス)には 沫雪降ると 知らねかも 梅の花咲く 含めらずして」
■日本書紀
「十有二月(シハス)」
という記述があります。
このことから、「シハス」という呼び方が既にあり漢字はあとからつけられたのでは?とする説もあります。
つまり「師走」の語源と考えられる「師馳す」という字も「シハス」という言葉の当て字ではないか?ということです。
平安以前の時代から既に12月は「シハス」と呼ばれており、後から当て字として「師馳す」という字がつけられ、さらに時代を経て一般的に知られる頃には「師走」という別の当て字がつけられたのではないでしょうか。
「シハス」の語源まで遡りたいところなのですが、残念ながらそれに関してはまだ確かなことは分かっていません。
しかし、「シハス」の語源ではないか?と思われる説を3つ紹介します!
■一年の終わり説
旧暦でも12月は一年の最後にあたります。
「年が果てる」ということから「年果つ(としはつ)」となり、「としはつ」から「しはす」
「しはす」から「しわす」となったとする説です。
■四季の終わり説
12月は「春夏秋冬」の四季でいうところの最後の「冬」にあてはまります。
さきほどの「年果つ」に近いのですが、「四季が果てる」から「四果つ(しはつ)」や「四極(しはつ)」となり、「しはつ」から「しはす」
「しはす」から「しわす」となったとする説です。
■最後になし終える説
一年の最後に「し終える」という意味から「為果つ(しはつ)」となり、それが転じて「しわす」となったとする説です。
実はこれらの「年果つ」や「四果つ」、そして「為果つ」が「シハス」の語源ではないか?とも言われています。
師走(しわす)の語源を総合的に考えると?
「年果つ(トシハツ)」「四果つ(しはつ)」「為果つ(しはつ)」
これらの言葉が万葉集や日本書紀の時代頃に「十二月(シハス)」と変わり、時代を経て「師馳す」という字が当てられて、さらに江戸時代になって「師走」という文字に変わっていったのではないでしょうか?
旧暦の師走は今のいつ頃?
旧暦の12月も現在の12月と一緒で年末の時期にあたります。
新しい年に向けて何かと忙しくなる時ですよね。
ただ、季節としては現在の12月とは少しズレがありました。
時間にして約1ヶ月~2ヶ月ほどのズレです。
というのも、今と昔では使われている暦(こよみ)が違うからなんです。
暦とは分かりやすく言えばカレンダーのようなものです。
・新暦=太陽暦(太陽の運行を基準とした暦法)
・旧暦=太陰太陽暦(月の満ち欠けと太陽の運行を組み合わせた暦法)
現在使っている新暦は「太陽暦」といって、地球が太陽の周りを一周するのを基準に1年が決められています。
1年は365日あって、4年に1度の「うるう年」がありますよね。
それに対して、昔使われていた旧暦は「太陰太陽暦(たいいんたいようれき)」といって月の満ち欠けと太陽の運行を基準に作られた暦法なのです。
月の満ち欠けで1ヶ月が決められるので、1年も354日になります。
現在の1年よりも11日も少ないのです。
なので年を重ねるごとに季節感がズレていきすよね?
そこで32~33ヶ月に一度「うるう月」が入れられて調整されていました。
この今と昔の暦の違いによって、昔と今では季節感にズレが生じてしまうのです。
では!その旧暦の師走を現在の新暦に置き換えてみるといつ頃になるのかというと…………。
■12月下旬頃~2月上旬頃
となります。
約1ヶ月~2ヶ月ほどのズレですね。
旧暦の師走は今でいう12月下旬頃から2月上旬頃にあたります。
昔の師走では前半は冬真っ盛りだったと思いますが、後半にもなれば春も”すぐそこ”と言った感じだったのでしょう。
■旧暦と新暦の違いやズレについて詳しくはこちらから
⇒旧暦と新暦の意味とは?違いやズレはなぜ?どうして暦は変わったの?
そして、太陰太陽暦において閏月がどのようにして入れられてたのか?
閏月の仕組みなどに関して、こちらで分かりやすく解説しているので興味のある方はどうぞご覧下さいね。
⇒旧暦の閏月の意味や決め方!二十四節気との関係をわかりやすく解説!
12月(師走)に関連する行事などについて
ちょっと一休み!
ということで、ここでは12月(師走)に関連する行事や風習、雑学などの記事をいくつかご紹介します。
興味のあるものがあればちょっと覗いて見て下さいね!
<雑学系>
⇒使い捨てカイロは再利用できる?使用期限切れは使える?捨て方も紹介
<年賀状>
⇒年賀状のマナー、宛名や連名はどう書く?横書きや手書きでは?
⇒年賀状の裏面を書く時のマナー、手書きで書くには?挨拶文の書き方も
<グルメ>
⇒カセットコンロの選び方!ボンベの種類や互換性についても紹介
⇒すき焼きの鍋の種類やサイズについて、手入れの方法についても紹介
⇒鍋の種類を素材やサイズで見てみよう。またそれにあった料理は?
12月の異名は他にもたくさん!由来も紹介!
12月には『師走』以外にもまだまだたくさんの異名があります。
ここでは呼び名と簡単な由来を紹介していきます。
■梅初月(うめはつづき)
旧暦の12月は現在の12月下旬から2月上旬にあたります。
梅が咲き始めるころにあたるので「梅初月」となったのですね。
■限月(かぎりづき・かぎりのつき)
12月はその年の最後の月、「くぎりの月」になることから「限月」とも呼ばれていました。
■季冬(きとう)
旧暦での各季節の分け方は
「春:1月2月3月・夏:4月5月6月・秋:7月8月9月・冬:10月11月12月」
となります。
そして各季節の「前半・中・後半」は『孟・仲・季』という文字であらわされました。
12月は冬の後半にあたるので「季冬」と呼ばれています。
■窮陰(きゅういん)
窮陰という言葉には「天候が晴れ晴れとしな”い陰気の究極”」ということから「冬の末」という意味があります。
旧暦12月はまさしく冬の終わりにあたる月であることから「窮陰」とも呼ばれました。
■極月(きょくげつ・きわまりづき・きわまるつき・ごくげつ・ごくづき)
その名の通り、12月は一年の極まりになる月になるので「極月」と呼ばれています。
■苦寒(くかん)
旧暦の12月は寒さも厳しい時期にあたります。
寒さに苦しむことから「苦寒」と呼ばれたのですね。
■建丑月(けんちゅうげつ)
「建」という文字は北斗七星の柄を意味しています。
そのあとに続く「丑」というのは十二支の「うし」を表しています。
北斗七星の柄を意味する「建」が12月になると北北東にあたる「丑」の方角にあたることから「建丑月」と呼ばれました。
■三冬月(さんとうげつ・みふゆづき)
12月が冬の三番目にあたる月になるので「三冬月」と名付けられました。
■丑月(ちゅうげつ)
「建丑月」と同様に、古代の中国では冬至を含んだ月に北斗七星の柄の先が真下の北の方角を指すので、その月(11月)を十二支の最初にあたる子(ねずみ)から「子月(しげつ)」としました。
そこから順番に十二支をあてはめていくと12月が「丑月」となります。
「丑の月(うしのつき)」とも呼ばれていました。
■歳極月(としはすづき)
「極月」同様に12月は一年の終わりにあたることから「歳極月」とも呼ばれました。
同じ意味で「暮歳(ぼさい)」という名前もあります。
■年積月(としつみづき・としつもづき)
また一つ年を積む月ということから「年積月」と呼ばれました。
■春待月(はるまちつき)
先ほどもお伝えしましたが、旧暦での春は「1月・2月・3月」になります。
もうすぐそこに春である1月が待っているので「春待月」と呼ばれたんですね。
昔の人はやはり情緒豊かですよね!
■晩冬(ばんとう)
旧暦での季節は冬が「10月・11月・12月」だと紹介しました。
12月が冬の終わりの月にあたるため「晩冬」と呼ばれたのですね。
■その他の12月(師走)の異名
まだまだ12月の異名はたくさんあります。
名前と読み方を紹介していきます。
■その他の12月(師走)の異名 | |
・殷正(いんせい・いんしょう)
・黄冬(おうとう) ・乙子月(おとごづき) ・弟子月(おとごづき) ・弟月(おとづき・おとうづき・おととづき) ・親子月(おやこづき) ・嘉平(かへい) ・嘉平月(かへいげつ) ・下冬(かとう) ・寒冬(かんとう) ・窮紀(きゅうき) ・急景(きゅうけい) ・窮月(きゅうげつ) ・窮冬(きゅうとう) ・暮古月(くれこづき) ・月窮(げっきゅう) ・月迫(げっぱく) ・玄枵(げんきょう) ・厳月(げんげつ) ・厳冬(げんとう) ・玄律(げんりつ) ・極冬(ごくとう) ・歳晩(さいばん) ・歳闌(さいらん・せいらん) ・鑿氷(さくひょう) ・茶月(さげつ) ・蜡月(さげつ) ・三冬(さんとう) ・残冬(ざんとう) ・三余(さんよ) ・四極(しきょく) ・柊月(しゅうげつ) ・小歳(しょうさい) ・涂(じょ・しわす) ・除月(じょげつ) |
・除(しわす)
・十二月(しわす) ・師馳(しわす) ・師趨(しわす) ・季冬(しわす) ・臈月(しわす・ろうげつ) ・臘月(しわす・ろうげつ) ・清祀(せいし) ・歳暮(せいぼ) ・送窮(そうきゅう) ・霜蟾(そうせん) ・大呂(たいりょ・たいろ) ・短景(たんけい) ・雉雛(ちこう) ・凋年(ちょうねん) ・天晧(てんこう) ・冬索(とうさく) ・涂月(とげつ) ・年満月(としみつづき) ・年世積月(としよつむつき) ・果ての月(はてのつき) ・晩月(ばんげつ) ・氷月(ひょうげつ) ・杪冬(びょうとう) ・暮節(ぼせつ) ・暮冬(ぼとう) ・末冬(まっとう) ・雪月(ゆきづき) ・余月(よげつ) ・餘月(よげつ) ・栗烈(りつれつ) ・臨月(りんげつ) ・冷月(れいげつ) ・臈(ろう) ・臘(ろう) |
「師走の意味と由来!旧暦ではいつ頃?12月の異名をたくさん紹介!」のまとめ
『師走』の意味や由来について紹介してきました。
「睦月、如月、弥生………」と続いていく和風月名。
なかなか覚えるのが大変じゃないでしょうか?
そこで『和風月名』を簡単な語呂合せで覚えられる短歌にしてみました!
自分で言うのもなんですが、なかなか覚えやすくできたと思うので、もし良かったらご覧下さいね!
また、「太陰暦」「太陰太陽暦」に関して詳しく知りたい方はぜひこちらからどうぞ。
⇒太陰暦の意味をわかりやすく解説!一年の決め方や純粋太陰暦って?
⇒太陰太陽暦とは?わかりやすく解説~日本の旧暦の歴史も紹介!
和風月名を調べておられる方の参考になれば幸いです。